晩秋の夜長てことで
最近買ったマンガ・本とか。
- 作者: 仲野えみこ
- 出版社/メーカー: 白泉社
- 発売日: 2009/11/05
- メディア: コミック
- クリック: 36回
- この商品を含むブログ (9件) を見る
- 作者: アガサクリスティ,Agatha Christie,深町真理子
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2003/11/01
- メディア: 文庫
- 購入: 1人 クリック: 11回
- この商品を含むブログ (6件) を見る
<角川>
「人のいいジャップ、かれもたいして変わっていないだろう?」と、ポアロがたずねた。
「ずいぶん老けたね」と、わたしはいった。「あなぐまのように灰色になったね」と、仕返しでもするように、つけ加えていった。
ポアロは、咳をしてから、いった。
「ねぇ、ヘイスティングズ、ちょっとした仕掛けがあるんだがね−わたしの床屋は、おそろしく起用な男でね−その仕掛けを頭の地にはりつけて、その上に、自分の髪の毛を撫でつけておくと−かつらじゃないんだ、よく、おわかりだろうが−しかし−」
「ポアロ」と、わたしは大声でいった。「はっきりというが、きみのけしからん床屋のいまいましい発明なんかを、どうしようとも思わないよ。わたしの頭のてっぺんが、どうかしたというのかね?」
「なんでもない−いや、ぜんぜん、なんでもない」
それにしたところで、とにかく、ジャップとどういう関係があるというんだ?あの男は、いつだって、いやな、癪にさわる奴だった。それに、ユーモアのセンスもない。人がすわろうとしている時に、椅子が引っぱりのけられると、大声で笑うようなたちの男だ」
「たいていの人間が、それには笑うだろうね」
「すわろうとしている人間の立場からいえば、確かに、そうだね」
「そうそう」と、いくぶん機嫌をなおして、わたしはいった。(髪の毛が薄いことについて、過敏になっているということは、わたしも認める)
<創元推理>
「あいかわらずでしょう、あのジャップも。え?」ポワロがわたしに言った。
「だいぶ老けたようですがね」わたしは言い、それから意地悪く、「すっかり髪が灰色になって、まるでアナグマみたいだ」とつけくわえた。
ポワロは咳払いして、遠まわしに言った−
「じつはね、ヘイスティングズ、ちょっとした仕掛けがあるんですがね−わたしの行きつけの床屋なんだが、これがなかなか器用な男でして。その仕掛けを頭に貼りつけて、その上に自前の髪をなでつける。すると−いやいや、かつらじゃないんです。わかるでしょう?−ただ、その−」
「よしてください、ポワロ」わたしはどなった。「あなたのいまいましい床屋の発明だかなんだか知りませんが、そんなものはくそくらえだ。ぼくの頭のてっぺんが、いったいなんだって言うんです?」
「なんでもありません−なんでもありませんよ」
「それにね、どっちにしろジャップのお世話になんかなりませんよ。そうでしょう?だいたい、むかしから気にさわるやつだった。ぜんぜんユーモアってものを解さない。あれはね、だれかが腰かけようとする椅子を後ろからひっぱって、尻餅をつくのを笑って見ているたぐいの手合いです」
「まあたいていの人間はそれを見れば笑うでしょう」
「ユーモアでもなんでもありませんよ、そんなのは」
「まあね、すわろうとした本人から見れば、たしかにそのとおりでしょうな」
「それにしても」と、すこし機嫌を直して、わたしは言った(白状するが、髪の薄いことを言われると、われながら、いくらかむきになるきらいがあるのだ)。
なんか引用箇所的にヘイスティングズ大尉のコンプレックスをやたらと強調した感じになってますが、角川のどちらかといえば簡潔な表現、創元推理のナチュラルな文章、さすがに50年近く前の訳の前者は古めかしいんですが、登場人物同士の会話や事件のカギとなるあたりの説明とかどちらともそれぞれに持ち味があるもんだなーと。